《ママはじめまして!〜最高のお産日記〜》
 
5/14(日)母の日 

朝4時10分…。初めての強い傷みで目が覚める。 
今までの前駆陣痛とは明らかに違う傷み。すぐに「本物の陣痛」であることが判った。 
時間をノートに記録する。 
  5時を過ぎると、陣痛は15分間隔になった。5時50分、出血。 
お産に備えてしっかり朝食を摂る。この時には陣痛は10〜15分間隔でやや不規則になってくる。 
7時半すぎまで同じ感じのまま、また出血。 
8時、8時半と、30秒くらいの強い痛みが2回くる。 
ここから、陣痛の間隔が更に短くなり、8分〜10分くらいになる。 
それに伴って痛みもだいぶ強くなってきた。このペースでお昼頃まで続いた。 
腹ごしらえはしっかりしなくては!と思い、陣痛の合間を見ながらざるそばをすすり込む。 
こんな状況でもしっかり一人前食べた。でも、顔からはだんだん笑顔が消えてきた。



12時にトイレでお水が下りた。生臭いニオイがしたのですぐに破水だと気がついた。 
念の為病院へ電話して確認し状況を具体的に説明。 
「多分破水だと思いますが、まだ“完全破水”ではなく今は止まっています。
赤ちゃんの方も元気にお腹で動いているので危険な状態ではないと思います。
陣痛は今8〜10分間隔で、まだ頑張れそうですが、いつ頃そちらに行ったらよいでしょうか?」
自分でも驚くほど冷静に、具体的に説明している。 
先方の看護婦さんも慣れた口調で「そうですね。もうちょっとお家で様子を見て頂いて、何か変化が 
あったらその都度まだ指示を仰いで頂けますか?このまま状況が変わらなければ1時間後にまた 
状況を知らせて下さい。」とのこと。助産婦さんの指示通りそのまま家でしばらくうだうだ・・・。 
1時。また破水。それとともに痛みもかなり強くなってくる。
陣痛も6〜8分間隔になり、もう一度病院へ電話する。
今度は「そろそろ一度こちらへ来てもらって、診察を受けて頂きます。」と言われ、1時半前、車で 家を出発。
この頃にはもう、陣痛の間隔を自分で時計を見てノートに記入する余裕がなく、家族に知らせて 書いてもらう。
2時5分前病院へ到着。この時点ですでに陣痛は5〜6分間隔。車を降りて「入院受付窓口」へ行く。 
途中で痛みの波が来てその場で立ち止まる。波が去ってまた歩き始める。
駐車場から入り口までの数十メートルの距離を5分くらいかけて一歩ずつ足を前に踏み出していく。   

 
*****いよいよ入院〜出産まで*****   
 

2時過ぎ…この時すでに陣痛は5分間隔。胎児の心拍を測る為に分娩監視装置をつける。 
この時点で「前期破水」が認められる。子宮&胎児の状況を見る為に内診をしたことで完全に破水。 
急激な痛みの波が襲ってくる。でも、まだ子宮口はたった2cmしか開いていないので分娩は当分先。 
「一時的に胎児の心拍が下がった」という助産婦さんの話し声がする。 
先生に電話で連絡をとっている様子。看護婦さん(助産婦さん)と女医さんが3〜4人かけつけてくる。 
「赤ちゃんの心拍が下がっていますので、お母さんに酸素マスクをつけますね。」といきなり鼻に管を 
入れられる。
何が起こってるの?赤ちゃんが危険なの?ものすごい不安になる。 
「今、一番苦しい時だね。でも、もうちょっと頑張ってね。お腹の赤ちゃんにいっぱい酸素を送って
あげましょう!」
助産婦さんが分娩監視装置を指差し、「このグラフのここ、空白になっているでしょう。 
これはお母さんが苦しくて息を止めちゃった為に、赤ちゃんにも酸素が来なくて苦しかったってこと
なのよ。だから、赤ちゃんの為にもお母さんが充分に呼吸をして頑張って!ママと赤ちゃんは一心同体。
これは共同作業なのよ。」 
私が息を止めたために、赤ちゃん…「サン」は苦しくて息が出来なかったんだ!胸にズキッときた。 
その後、何も考えずに、ただただ新しい酸素を出来るだけ多く、吸って、吐いて、サンに送り続ける 
ことだけ無心に考えていた。 
「もうこのままお産になると思いますので、お産着に着替えて下さい。」と指示される。 
ダンナに連絡するヒマもない。母に連絡を頼み、とりあえず着替える。 
陣痛の波が5分よりだいぶ短くなってきた気がする。
痛みもかなり強くなったが、まだ「いきみたい感じ」はない。
さっきまで付けていた「陣痛記録ノート」も、もう付け続ける余裕が全くなくなってきた。 
あれからどのくらい経ったのだろう??
壁際の時計がカーテンに隠れて見えないが、1時間以上は経ったのだろうか。
助産婦さんが何度もカーテンの中に様子を見に来てくれた。 
「赤ちゃん、すごく元気になったよ。ママが頑張ってるお陰ね。もう大丈夫よ。」 
サンが元気になった!その言葉だけでほっとして、陣痛の痛みが吹っ飛んで満面の笑顔になった。 
助産婦さんが「この痛みの中でそれだけの笑顔でいられるのはすごい!」と誉めて下さる。 
「もう一度赤ちゃんの状態を見ましょうね」と女医さんが内診。 
「子宮口6cm。赤ちゃんかなり下がっています。初産なのにすごいスピードでお産が進んでいますね。 
これはもうじき産めるかもしれないですよ。」 
「もう産める?こんなに早く??」本で読んでた「お産の進行:1期〜3期」という段取りが、
頭の中でぶっ飛んだ。 
又も内診の刺激でお水の下りる感じがする。お水が下りると必ず陣痛の大波が押し寄せてくる。 
「このままお産になる」ということで、まだ入院の手続きなど全くしてなかったので、
陣痛の合間をぬって問診。 
「ご主人の年齢は?」「32っ!・・・いや3だっけ。」
「義理のご両親に特に既往歴は?」「・・・知りません!」そんなこと考えてる余裕は全くない。 
1つ、2つの質問に答えると、すぐにまた痛みの大波がやってきて中断する。 
すごい時間がかかってようやく問診票が完成した。 
このあたりで陣痛の波が逃しきれなくなり、意志に反して下腹部にグッと力が入ってしまう。 
これは完全にイキんでいる状態。 
まだイキんではいけない時なのに、どうしても体が言うことを聞かない。 
分娩監視装置のグラフについつい目がいってしまう。やはりサンは苦しがってるのか、私がイキむと 
同時にグラフのラインが途切れる。 
それを見ると辛くて涙が出てくる。「苦しいよねサン、ごめんねごめんね…。」何度もサンに謝る。 
でも、次の波が来ると、やはり意志に反してまた下腹部に力が入る。 
もうどうしていいのか分からず、たまりかねて助産婦さんをひとり捕まえる。 
「赤ちゃんが苦しがるのが分かってるのに、どうしても下腹部に力が入ってしまうんです。 
どうしてもイキミが逃せないんです。どうしたらいいですか?」 
すると、助産婦さんはニッコリして「とにかくしっかり呼吸をすることです。吸うことよりも
吐くことを意識して。短く吸って、出来るだけ細く長く息を吐いて。それだけ繰り返して。」
と言われる。 
助産婦さんのアドバイス通り、精一杯、イキミを逃す様に大きく深呼吸をする。
すると、監視装置の音がまた元気にピコピコ復活する。その音だけを頼りにとにかく頑張る。 
助産婦さん「そう、上手に逃せてますよ。その調子。赤ちゃんはママの頑張りのお陰ですごい元気よ。」 
その言葉が何より励みになって頑張れた。 
痛みの大波が来て、呼吸でイキミを逃す度に、監視装置のグラフをチラチラ見てはサンの元気を確認 
して安心する。それを繰り返す。 
その様子を見てた女医さんに「ものすごい冷静だね。この器械は助産婦とか先生が注意するもの 
なのに、自分でチェックしてるなんて世話無しでいいわ。」と笑われる。 
いつもの主治医の先生が到着。 
先生のお顔を見た途端、安心して思わず先生の後ろに後光が差して見えた気がした。 
「さっき2:00頃入ってきたばかりだと思ったら、もう5時に生まれるんだって?慌てちゃったよ。 
初産にしちゃあすごいスピードだなぁ。 
先生グラフを見て「いい陣痛がきてるなぁ。」 
助産婦さん、「じゃあ、この足台の上に足を置いて下さいね。」足を置くとベルトで固定される。 
一瞬意味が分からず「これ、もう思いきりイキんでいいってことですか?」と聞く。 
先生、助産婦さんともニッコリ。「思いっきりイキんでいいよ。」 
そら来た!という感じで、陣痛の大波を待つ。すごい波が来た。 
「来た〜!」とみんなに合図。 
助産婦さん「じゃあ、1回目大きく吸って、吐いて、逃しましょう。
2回目も同じく吸ってー、吐いてー、 次、大きく吸ったらそこで息を止めて、下腹部に力を入れて
みましょう。」 
これこれ!マタニティビクスで練習した「イキミ」と同じ場面だ。 
嫌というほどイメトレしたからこれは自信がある。
グリップを握り、お尻をしっかり椅子につけて、自分のヘソ下を覗き込むように、ぐっとあごを引いて
満身の力を込める。 
「すごい上手なイキミよ。」助産婦さんが誉めてくれる。
きっと誰にでもそう言ってくれるのだろうが、何だかそのひとことで自信が出てくる感じ。 
また次の波が来た。また同じようにイキんでみる。さっきより実感が出てきて、力がうまく下腹部に
集中しているのが分かる。これがイキミというものだ!と、今までのイメトレを初めて体で実感した感じ。 
助産婦さん「すごい上手ねー」と何度も誉めてくれる。「とても初産じゃないみたい」 
先生にも「いや、ホントに上手だねー。これ母親学級で教えてもらっただけ?」と言われ、私は 
「いいえ、週2回のマタニティビクスで何度も練習したんです。」というと、先生「そんなこと教えて
くれるんだー。いやぁ、本当に上手だね。見事だね。」
先生にそんなに誉めてもらって、何だかすごく嬉しくなって、思わず笑顔がほころんでしまう。 
「しかもその笑顔!この状況の中、ずっと笑顔でいられる、という冷静さが尚すごい。
とても初産とは思えないほど落ち着いてるね。
普通はもっとパニックになったり、辛くて後ろ向きになってくるのに。 
あなたのお産だから、もっといろんな劇的なエピソードを期待してたのに、こんな冷静なお産で
何だか期待外れだなぁ。」先生、それはない! 
私「先生、私今まで何度も痛い治療を頑張ってきたのに、ご褒美なんて一度もなかったんですよ。
ここで頑張った後もらえるご褒美の大きさを思えば、嬉しくて、その気持ち以外にはありません!」
と笑顔で答える。 
先生「その前向きさ!それがすべていいお産に繋がっているんだね。
産婦さんの全員があなたの様な前向きなお産だと非常にありがたいね。」
私思わず「それは今まで長いこと治療に頑張って来たからこそです。
こうして頑張れたのも、先生がずっと私を励まして下さったからです。
先生に診ていただけなかったら、私は今ここで笑顔で頑張ることは出来なかったです。
何もかも先生のお陰です!」と、分娩台の上で感謝の言葉の嵐。 
先生は少し照れたように笑っていた。 
「・・・で、ところで結局あなたは最終的に何の治療で妊娠したんだっけ?HITだっけ?」 
・・・先生―!!私は結局体調を崩して、治療をほっぽりだした周期での自然妊娠だったんだ。実は。 
先生、思い出したように「ああ、そうだ。自然に出来たんだったなー。やっぱりさすが元気な子だなー」
と、自分で妙なフォローをしているので思わずおかしくなった。 
また陣痛の波が来た。うまく波に乗って大きくイキむ。
イキミ方はこれで間違っていないはず。でも何も変化はない。
また次の波を待ち大きくイキむがやっぱり変化はない。何度も何度もその繰り返し。
「どうして?こんなに頑張ってるのに出てくれないの?」思わず不安になって聞く。 
助産婦さんと先生、「ちゃんと出てるよー。イキんでる時はもう、頭がこんなに見えてる。
髪の毛なんてもう出口から出てて引っ張れるくらいだよ。」と言われ、思わず「髪の毛?触りたい!」
と言ってみんな爆笑! 
少し気を取り直して頑張ることにした。
分娩台での自分のお尻の位置をたて直し、足台の踏み込みと手のグリップの握りを再度確認して、
一番うまくイキめそうな体制を作り直す。 
その姿を見て先生「そういうのも普通はこっちが指示するもんなんだけど、指示がなくても自分で
こうしてちゃんと体制を取り直すところなんか、いや〜実に客観的で冷静だ。
こんな冷静な初産婦さんは見たことがない。」と誉めちぎり。 
私はまた更に気をよくして、鼻高々で次の痛みの波を待つ。 
途中で看護婦さんが入ってきて「先生すいません。ご主人が、今の状況を知りたいとおっしゃって
るんですけど」
・・・何もこんな時に!今の状況ったって、さっきから何も変りないよー!と、ちょっとムカつく。
でも外には私の状況はまったく知らされてないらしい、と知る。 
ダンナが持っているバッグにカメラが入っているのが気になっている。
本当だったらそれを受け取ってから分娩室に入る段取りになっていたのに、お産が早すぎて
間に合わなかったのだ。 
私はそのことが悔しくて、陣痛の合間にブツブツ文句を言っていた。
すると、先生と助産婦さんが 「写真?カメラ渡してもらえれば撮ってあげるよ。」
本当?嬉しい!!遠慮している場合ではない。 
「お願いします」と、恐れ多くもこんな偉い先生にお願いしてしまった。 
その後何度も何度も痛みの大波が来て、その都度全力で頑張る。 
でも、痛みはどんどん強くなるばかり。反対に、腰の力はどんどん消耗してきて、さっきまでの様に 
思ったほど力が入らない。もどかしいのと苦しいので台の上のお尻がよじれる。 
「お尻よじらないで!台の上にしっかりつけて足を踏ん張って。」 
そう注意されて、思わずマタニティビクスの先生の言葉「分娩台に乗ったら絶対に台から腰を浮かせず
しっかりつけて足を踏ん張る!」という言葉とダブり、はっとして、またお尻の体制を整え、一番いい
ポジションに座り直す。 
また何度も何度もイキむ。
何十回イキんだのだろう。でも全く頭が出てくる気配すらない。 
一体、あと何度イキめば出てくるんだろう?この痛みがあと何時間続くの? 
体力的にも限界が近づいてくるのを感じて少し弱気になった。 
私がイキむ力がなくなったら、ずっとこのまま出てこないの?
それは困る。何とかこの一撃で出てくれ。 
何度もそう思ってイキむ。 
その様子をじっと見ていた先生がおもむろに近づいてきた。
「うーん、切らなくてもいけるかなーと思ってったんだけど、やっぱりちょっとだけメスで
補助させてくれる?」 
「会陰切開」やっぱりそうなるか。赤ちゃんが大きめなので覚悟はしていた。 
「ブチッ、ブチッ!」結構いさぎよく切る音がするが痛みは全く感じない。 
さぁ!この後ヘタにイキんだら、きっとビリビリに裂けて大変なことになってしまう。うまくやらねば! 
でも、そんなこと怖がっている場合でもなかった。
とにかく、大惨事にだけはならないよう、余計な力を極力抜いて、ビクスで習った通り、基本に忠実に
とにかく冷静にイキんだ。 
「赤ちゃんの名前は決まってるの?」唐突に先生から聞かれた。
「隼祐です。」というと先生、「じゃあ“しゅんくん”って、みんなで呼んであげるね。」というので、
私は「先生、それじゃダメです。この子お腹にいる時は“サン”って呼ばれてたんです。」と言った。
「どうして“サン”なの?」と先生に聞かれた。 
そこで私は、初めてこの子の心拍が見えた時に、先生から「赤ちゃん3mmだよ。」と言われ、その日
から「3mmちゃん」と呼び、それが「サン」になったことを話した。 
「そっかー。僕がつけたのか。」先生何だかすごく嬉しそう。 
「じゃあ、お腹の方で補助する助産婦さんが“サン”で、僕は下で受け止めるから「しゅん」って
呼んであげよう。」 
みんなでこんなに応援してくれて感激!ものすごく力が沸いてきた。 
また痛みの波が来てイキんだ。「よーし、すごくいいイキミになってきたよ。今のが一番よかった。 
これで次は出てくるよ。はいっ、しっかり目を開けて!」 
カッ!と目を見開いて先生を睨みつけた。 
先生ニコッとして、「よーし、産む目になってきた。これが最後のイキミだよ。」 
これが最後!本当にそのつもりになって、その時やってきたイキミの大波に乗って、全神経を一点に 
集中させた。 
足と腰に驚くような力が込められて、足台を「グーッ!」と押した。 
「キューーッ!」とイキむ声が思わずもれた。 
その瞬間、骨盤がメキメキと上下左右に木っ端微塵に飛び散る感じがした。 
「はいっ、イキみやめて!」先生の声。…やめて?やめてってどういうことだろう? 
「頭と肩が出たよ。」はぁ〜と気が抜ける。
そのとたん、母親学級で習った「短息呼吸」という4文字がポンと頭の中に浮かび、慌てて
「はっはっはっ…」と息を吐き続けた。 
ずるずるっ!と生暖かい感じがした。先生がドロツとした大きなものを持っている。 
赤ちゃんだ!これが私の赤ちゃん。サンだ!!息が止まりそうな気持ちになった。 
でも、テレビで見るように泣かない。まだ泣かない。 
「泣いてよ〜!」思わず叫ぶ。まもなく「うげげっ、うげげっ」とカエルの様な泣き声がした。 
(後で聞いたら、羊水を飲んでしまい、泣けなかったそう。) 
無事な泣き声を聞いた時、私はこのお産の中で初めて泣いた。 
「赤ちゃん泣いた〜!泣いてるよ〜!」と、私もサンと一緒に号泣した。 
ヘソの緒を切る前に、先生が約束通り写真を撮ってくれた。 
「先生すいません、こんな忙しい時に…。」私もこんな状態なのに、妙に先生に恐縮してしまった。 
赤ちゃんがお腹に乗せられた。赤ちゃん、こんなに暖かいものだったとは!! 
息が止まりそうなほど感激した。   

 

 

 

「おめでとうございます。午後5時50分 3374gですねー。」助産婦産さんの声。 
5時50分、3374g、これからみんなに報告する数字だ。しっかり覚えておかなくちゃ。 
頭の中で、何度もその数字を繰り返しつぶやいた。 
5分か10分たった後、今度は前よりも柔らかい物がズルズルっと滑り出てきた。 
すぐ下で受け止められてしまったので見えなかったが、きっと、赤ちゃんに栄養を送ってくれていた 
胎盤だろう。
「今までずっと赤ちゃんのためにありがとう。」と心の中で感謝の言葉をかけた。 
 
「臍帯血、お願いしまーす。」 
臍帯血、使ってもらえるんだ。よかったー。誰かの役に立ってね。 
こんな状況なのに、ふとそんなことを思う余裕があるのがフシギ。 
「はいっ、麻酔するよ。ちょっとちくっとするからね。」長い注射針が近づいてきて、
一瞬ちくっとする。 
すぐさま先生が傷口を手際よくチクチクと縫っていく。
この手際から想像すると、あんまり損傷はなかったのだな、と想像する。
案の定先生「傷口すごいキレイだよ。たいてい初産の人って痛みを逃しきれずに
“イキんじゃダメ”っていうところでイキんじゃうから、傷口がビリビリになっちゃうんだよ。
でも、あなたは本当に上手にイキミを逃してくれたから、赤ちゃんの出口だけちょっとメスで
補助入れたけど、その傷以外は全く見事といっていいほどかすり傷程度しかついていないよ。
いやーお見事だ。」 
そりゃそうだ。それだけは避けたくて頑張ったのだから! 
傷口を縫った後、助産婦さん「あーー、しっかりイキんだから、ちょっとうっ血してますねー。 
後で辛いかもしれないけど…。」
どんな風になっているのだろう?下半身は全く感覚がなくなっている状態。 
お腹の上にアイスノンを乗せられる。ヒヤっとする感触。 
「じゃあ、しばらくここで安静にしててくださいね。」と助産婦さん。 
 
・・・あっという間に、蜘蛛の子を散らすようにみんながいなくなった。 
ひとりでポツンとカーテンの中に残される。 
赤ちゃんはいつ連れてきてもらえるのだろう? 
しばらくして助産婦さんの声。
「赤ちゃん、ちょっと羊水を飲んじゃってるので、吸引した後、測らせてもらって、ご家族に見て
もらってから、こちらへ連れてきましょうね。」 
ああ、みんなまだ見ていないんだ。きっと心配しているだろうな。 
サンは羊水を飲んじゃってたんだ。どうりで泣けなかった訳だ。でも大事に至らなくて何よりだった。 
少し経ってから「ゴーー、ズゴゴゴー」と、掃除機の様な音が続き、その合間に「んげげっ、んげげっ」 
というカエルの様な泣き声が聞こえて、何だか妙に笑えた。 
と同時に「こんな変な声でも泣けてよかったね。」と、嬉しさで一杯になった。 
  
しばらくして遠くで「ご家族の皆様〜」と助産婦さんの声。 
「おめでとうございますー!」わーっと歓声が上がる。みんなで口々にあれこれ言っている。 
早くみんなのところへ行きたい!一緒に赤ちゃんを抱っこしたい! 
分娩台の上で寝かされているのがもどかしくてしょうがなくなった。 
  
まもなく看護婦さんが来て、「ご家族の方が面会しても大丈夫ですか?」と聞かれる。 
「はい、お願いします」と答える。家族のみんなが分娩室に案内されてきた。 
妹がカメラを構えているので、いつもの通り元気一杯にピース! 
「赤ちゃんかわいかったよー。お姉ちゃんに似てるの。」そうかママ似かぁ。ちょっと嬉しくなる。 
それにしても、さっきちらっと見たベビーは、顔も酷くむくんでいるし、頭も、さっき陣痛の時に 
何度も出たり引っ込んだりしたせいか、真っ青で、少しすりむけていて、とても「かわいい」と 
言われる様な感じじゃなかったはず。ましてやママ似なんて。。。ちょっと複雑な心境。 
「どうだった?大丈夫?」家族にいろいろ聞かれる。 
「いやぁ、お産なんてこんなもんじゃない、まだまだ辛くなるはず、と思っているところで
あっけなく生まれちゃったよー。」と元気に答えた。 
家族のみんなが退室した後、赤ちゃんが枕元に連れてこられた。 
口をパクパクさせて、頭を左右に振っている。少しおびえているのか、心細そうな表情。 
私は自分の左腕を赤ちゃんの頭の下にあてがって、首を少しこちらに向かせた。 
「サン」と声をかけて頭を撫でてやった。
するとサンは私に向かってこの上もない満面の笑顔でニッコリ笑ってくれた! 
生まれてすぐの子がこんな風に笑うなんて!!すごくビックリした。 
しばらくして、サンはまた連れて行かれ、「ご主人だけカーテンの中に入ってもらいますね。」
と助産婦さん。ダンナが白い白衣を来て入ってきた。 
「初めて見た時『しゅんすけー!』って叫んですごい泣いちゃったよー」とダンナ。 
「最初、破水してね、胎児の心拍が下がったって言われて、酸素マスク付けられて、そのまま 
分娩になっちゃったから、あなたに連絡も出来なくて。
でもその割には赤ちゃんがなかなか出てこなくって。
でも、イキミが上手だったって誉められたんだよー。」 
私は早口で今までのことを支離滅裂に報告した。 
「もうしゃべらなくていいから少し休め。」ダンナは言ったが、私の口は止まらない。 
「赤ちゃん、私に似てるって。でも、ほっぺとおでこはパパ似の様な気がするよ。
そうそう今さっきね私に笑ってくれたのよ。」私は嬉しくて更にしゃべり続けた。 
しばらく面会した後、またダンナは外に出された。 
このまま約二時間、しばらく安静にしているよう指示を出された。 
  
午後8時くらい。 
そろそろもう起き上がってもいいですよ、との指示。 
分娩台から上半身だけ起き上がってみる。お産の傷口がかなり腫れているのだろうか。 
痛みでとても座れたもんじゃない。 
「トイレに行きたい感じはありますか?」そういえばちょっと行きたいかも。 
「分娩台から下りて立てるようだったら、自力でトイレに行ってみましょう。」 
恐る恐る床に足を付けてみる。ちょっと足元がグラグラしたが、しっかり立てた。 
「じゃあ、とりあえず、一人で歩いてトイレに行ってみてください。
済んだらトイレからナースコールを押して下さい。」と言われる。 
スリッパを履いて、そろりそろりと廊下を歩いてみる。 
やっぱり足がガクガクで思うように歩けない。まるで「大運動会」の翌日のようなすごい筋肉痛。 
たった数メートルのトイレまでの距離に何分もかかってしまった。 
トイレに入ったがカチカチで何も出てこない。10分ほど座ってみたが、諦めてナースコールを押した。 
手を洗って、廊下で待っていたが誰も出てこない。 
分娩室で「うーーん!」と声が聞こえる。そういえばさっき隣に運ばれてきた人がいたから、みんな 
そっちの方で忙しいんだろう。 
来た道をまた、そろりそろりと歩いて戻る。 
入り口で、さっきの助産婦さんがバタバタと出てくるところ。
私を見て「あ、そうだ!」という顔。 
「お迎えに行くと言ってたけど、ひとりで歩いて帰ってこれたんですね。」 
私は「ナースコールしたんですけど、お迎えが来なかったので、こちらからお迎えに上がりました。」 
助産婦さん「佐藤さんめちゃくちゃおかしー!」と爆笑。 
  
部屋に戻った後「落ち着いたら病室に戻りましょう」と言われる。
でもお腹がペコペコだったので「すいません、その前に母の差し入れのお弁当、食べてもいいですか?」
と聞くと、「ああ、お食事、食べられる様なら、もう病院食が出てますので運んでもらいましょう。」
と言われ感激! 
早速運んでもらう。「じゃあご主人も一緒に」とダンナを連れてきてもらい、分娩室で二人でご飯。 
おいしくておいしくて、すごい勢いで、病院食と差し入れを両方ペロっとたいらげた。 
またトイレに行きたくなった。今度は大成功。少しほっとした。 
病室の準備が出来ていなかったので、一旦陣痛室に移された。 
初めて見る部屋。そういえば私は「陣痛室」には入らず「分娩室」に行ったのだった。思わず笑えた。 
「じゃあ、病室が整い次第お連れしますので。」そう言ったまま看護婦さんは部屋を出て、病室の準備
に行ってしまった。 
なかなか戻ってこなかったので、これ幸いと、その隙に私も部屋を出て、家族に電話したり、準備して 
おいたメール端末&PHSで友達にメールを送りまくった。 
少しして部屋に戻ると、看護婦さんはもうすでに戻っていて、早速歩き回っている私を見て「ふふっ」と 
笑っていた。 
午後9時過ぎ。もう消灯を過ぎている暗い病室に案内され、ベッドにコソコソもぐり込んだ。 
少し経って、看護婦さんがお腹の状態を見に来る。 
「あー、かなり子宮の戻り状態が悪いですね。お産の時の出血も多かったせいでしょう。
ちょっとお腹にアイスノンをのせましょう。」と言われる。 
確かに、お腹を押されると、陣痛の時の様な痛みが走る。 
「マッサージをすると戻りがよくなるので、少し自分でやってみてください。」と言われ、
せっせとやってみる。でも、すごく痛い。 
そうそう、マタニティビクスで習った「骨盤と子宮の戻りをよくするエクササイズがあったっけ。」 
そんなものも思い出してせっせとやってみる。 
結局、何だかんだで、それから1時間以上マッサージを続けた。 
この日は結局すごい興奮状態で朝までほとんど眠れなかった。   
        お産日記part2(入院〜退院)へ